カワカミブックス

本の感想。かなり個人的。かなりネタバレ。

『満願』米澤穂信 新潮社

満願

『満願』米澤穂信 新潮社


発売されてからかなり読みたかった本で、ブックオフに並ぶのを心待ちにしていました。笑

いくら待っても手に入れることはできなかったんですが、、

大学で在籍しているコースの書庫で、米澤穂信特集のユリイカを借りたことをきっかけに事務の方と話が発展し、なんと貸していただけることに。

ありがとうございます!


以下、完全なる個人的な感想です。
ネタバレしてます。





ーー


『夜警』
この話は後ろ暗い感じがありつつ結局なにもならずに終わるんですよね。
回想、告白がメインですかね。
わたしとしては話の終盤で何かしらスパートやらどんでん返しやらなにかあるのかと予想したのですが、、淡々と終わった印象です。

あの日あったことを思い出していくにつれ確信に近づいて、、それで終わりという。笑


ただ、交番勤務の警官の話ということで、けっこう仕事について細かく書いているんじゃないんでしょうか。
米澤さんの話は学生さんやいいとこのお嬢様といったラノベ的な舞台のイメージだったので、初め読んだときにあれっ、となりましたね。なにか違う、と。
『万灯』を読んだときもよく取材したんだろうな~と思いました。


『死人宿』
これは読み終わった今としては明るいイメージの話ですね。
読んでいる途中はいつ女将(別れた女性)に主人公が殺されるのかと思いましたが、、
(『関守』では最終的に主人公殺されましたね。そういうのをこの話で予想してました)
この話くらいじゃないでしょうか。
はっきりしっかり「推理」してるの。
他の話は真相に対して受動的に「気づく」ことが多いですが、この話は真相を能動的に「推理」してますよね。
そういった部分もあり読み終わった今ではこの話が明るい?健全?なイメージです、、
死の原因に主人公は絡まず、主人公に魔の手も迫らない、、
ああ、「安全」ですね。「安全」。

ちなみにこれを貸してくださった方には『死人宿』的な作家さんとして連城三紀彦を勧められました。
まだ読んだことがないので是非読みます!


『柘榴』
これはもうハイハイな感じですね。嫌いではないです。
ただ展開は読めます。
「柘榴」のキーワードで全て予想できるほど教養はありませんが、、

なんとなーく浮世離れしてる気のするお話ですね。
美しい母親、美しい姉妹、愛される才能はあるが家族としてはダメな父親。

その中での夕子と月子の行動がわかりやすいなーと。
夕子の考え方とかは面白かったですね。
一挙両得。父に親権が行くようにする工作と、妹を傷物にする作戦がイコール。
そしてやられたからやってもいいという、、
月子からしたら、逃れられないですよね~
あーほんとひどい姉。素晴らしい心理テクニック。


『万灯』
わたしはこの話が一番好きですね。
資源と民族とかは読んでて少ししつこいなーと思ったんですが、構成としてはこれが一番良いと思いました。

まずこのお話は主人公=犯人ですね~。
米澤穂信にはいくつかこの形のお話があった気がします。
たとえば『夏期限定~』の"シャルロットだけはぼくのもの"。あれそうですよね~
あの話では犯人役が小鳩くんで探偵役が小山内さんですね。

この話が面白いと思った点は、探偵役が不在であることです。
まあ、強いて言うなら政府なんですかね。
で、証拠がコレラと。
しかも空港での検査で異常なしってのがさらに証拠を揺るぎないものにしてるのが良いですね~。
勝手に追い詰められていく終盤はほんとうに面白かったです。

次の話の『関守』もなんですが、伏線が良いんですよね~。


『関守』
どの話が一番好きじゃないかと聞かれたら、これだと答えます。笑
だってホラーじゃないですか。これ。笑
『死人宿』でもそうだったように(何なら『夜警』でも)わたしはけっこう主人公が殺される展開を予想してるんですね。
わたしは完全に主人公の視点から読むので、悪い予感のようなものを感じるのですよ、、
そして殺されると分かってて読むのは苦痛です!ホラーです!笑
わたしは殺されることに気づいてて、でもどうにかしてあげたいのに何もできないことがもどかしいです、、
主人公も油断しすぎだよ!とは思いますね、、
『柘榴』の夕子の提案しかり、『万灯』のチャイしかり、そしてこの話のコーヒーしかり、差し出されたものをホイホイ受けとるんじゃない!!笑

読んでてほんとにホラーでしかなかったんですが、おばあさんが薬局?で働いていたこと、先輩が行っていた取材、道祖神あたりの要素は面白くて気づいたときはシメシメとしました~。

ブレーキ関係の事故を誘発させてるのかなと思ったのですが、単に石で殴り殺したという原始的な方法も、なんていうかもっともっと怖いですね。
この話こそ主人公が書こうとした都市伝説的な怖さがあると思います、、


『満願』
表題作ですね。
かなり期待していたので思ったより、、という感じでしたね。
淡々とした謎解きでいいんじゃないでしょうか。
この話に関してはあまり言いたいことがないんですよね、、あまりにもきれいにまとまっているので、、
伏線のことも達磨くらいしか感じ取れませんでしたね、、
もうちょっと他の感想サイトを巡ってみようと思います。





『満願』、短編集で展開がバラエティに富んでいるのが良かったですね~
構成も違っていてそういうところほんとに好きですわー。
『万灯』のほかに、『柘榴』の母親と夕子の二つの視点で描かれる構成もかなり好きですかね。
また、文から空気を感じられるのも良いですね。
『夜警』では川藤が住んでいた家の重っ苦しい感じ、
『死人宿』では山深く廊下がうねうねした旅館、
『柘榴』は美しさ、若さと、夕子と父親それぞれが持つ危うさ、
『万灯』ではインドあたりの(適当)なんていうかー外国、とくに赤道近くの暑さ、あと未開の感じ、
『関守』ではまとわりつくような気持ちの悪い暑さ、
『満願』ではちょっと時代が古めなのでノスタルジックな空気感ですね。


(わたしの中で『満願』評価が低かったのはこの本を読む前に読んだのが北村薫さんの『街の灯』だったので、ノスタルジックが少々食傷気味だったのかもしれません、、)


ともあれ、かなり面白かったので実物も手に入れたいと思います。
文庫が出て、それがブックオフの100円コーナーに並べられる頃、、

かなり先ですね、、。笑




河上